人新生の資本論と医療人
人新生の資本論を読みました。
正直、資本論を紹介していましたが、読んだことはなかったため、敬遠していた部類の本でした。
しかし、非常に人気があることと、敬遠している分野だからこそ本から入るべきだと考え、本書を読んでみました。
本日は、人新生の資本論を読んだ感想と、これを医療とどう結びつけるかについて考えます。
(今回はリラックス回です)
【目次】
・人新生の資本論で言いたかったこと
本書のあらすじに関しては、「中田敦彦のYouTube大学」で紹介されていましたので、こちらを参照ください。
絶対に私が説明するよりわかりやすいです。
ただ、全てをこちらの動画に任せるわけにもいかないので、私が本書から読み取ったことを述べると、以下の通りになります。
・経済成長を基礎に置いた資本主義がこのまま続くと、環境破壊が進み、プラネタリー・バウンダリー(地球が持つ復元力では元に戻らなくなる境界線)を超えてしまう。
・先進国は新興国に自分達の都合の悪いこと(ごみ、資源、労働など)を押し付けてきた(外部化)が、新興国も科学技術の発展が急速に進む今、外部化が難しくなってきている。
・資本主義では経済格差が拡大する構造になっている。経済発展は環境保全とデカップリング(別々に考えること)ができないため、常にトレードオフの関係にある。そのため、経済発展を捨て、富の再分配を行えば、皆が安定的に暮らせる持続可能で、社会的に平等なコミュニティを形成することができる。
・このためには、共同体範囲での循環型のシステムが必要である。
ざっくりとこんな感じです。
これを聞くと、皆さんは社会主義はソ連や中国のような一党支配で経済成長を主とした社会主義の国家をイメージすると思います。
しかし、本書ではそのような生産性主義的な社会主義のあり方はマルクスの本来の資本論の姿とはかけ離れた、誤った資本論を元に築かれた社会らしいのです。
科学技術が台頭することで、経済成長と環境保全が両立できないということを1~2章や5章を使って解説しており、そのような幻想を早く捨てなければ、あと10~20年で地球が取り返しのつかないことになるという事実は非常にショッキングなことでした。
本書で記載がありましたが、本気で何かを変えようとするとき、コミュニティの3.5%の人が本気で活動すると、その熱が全体に移るようです。
ウクライナ問題の場合もそうですが、そういった一部の方々が本気で具体的な活動(ロビイングやデモなど)をすることで、その他大勢が動くと言われています。
本書の導入は、ファクトフルネスを読んだ時以来の衝撃だったので、皆さんにも読むのをお勧めします。
・日本の医療は循環型コミュニティ形成の親和性が高い?
日本の医療は皆保険制度が採用されており、医療リソースは全体で共有しているので、日本国内でも医療は共産的だということもできます。
もちろん資本主義国家の元にあるので、民間の病院や診療所では経営も非常に重要ですが、国立や公立の病院に関しては、地域医療の保護のために赤字の病院に対しては自治体や都道府県からサポートがあるのが現状です。
これは、採算性の低い先端医療や難病などの実施や、地域医療維持のために必要だからです。
医療という分野に関しては、日本は非常に成功しているという点も医療者が声を上げやすい点だと思います。
アメリカの医療は世界最先端ですし、医療費も世界トップだったと思います。
しかし、アメリカの平均寿命は世界のトップではなく、むしろ低下傾向にあったくらいです。
貧富の差が大きい都市ほど、平均寿命が小さくなるという研究もあったくらいです。
日本は国民皆保険制度により、制度上、どのような方も医療にかかることができます。
つまり、必要な方が必要な際に、全員で共有された医療リソースを使えるということです。
これは、人新生の資本論で理想と掲げられていた形ではないでしょうか。
こういった医療分野の背景があるため、医療者は資本主義に対する反対運動を比較的行いやすい立場にあるのではないかと感じました。
ちなみに、医療のリソースを最適に分配するための学問が医療経済学です。
この分野について、比較的初学者でも読みやすい本を2冊紹介しておきます。
「経済学」とありますが、医療のコストパフォーマンスについての勉強になりますし、医療人なら一度読んでおくべき内容だと考えています。
・環境に対する危機感は医療分野でも生じている
また、環境に対する危機感についても医療分野でも散見されています。
イギリスの方では、GP(General Practitioner)というかかりつけ医の制度が発展しているのですが、最近はGreener Practiceの意味でのGPもよく言われるようです。
自然環境が変化して、地球の平均気温が上昇すると、新興感染症の発生や、それまで発生していなかった地域で生物が生存できるようになり、その生物(蚊など)が媒介する感染症が拡大する可能性があるからです。
そこで、One-Healthという概念が提唱されています。
これは、「自然、すなわち生態系と野生動物や家畜、そして人間といった全ての健康を等しく健全な状態に保ち守っていくことが必要」ということです。
人間のみが健康でもいけないということです。
これらのように、環境や貧富の差に対して感度の高い医療職はこういった社会課題に対し、声を上げるべき職種であると感じました。
医療とはそもそも、社会的地位の低い方にこそ目を向けるべき職種ですし、そういった方々のためには今の資本主義社会が全て正しいと思わずに行動することが大切でしょう。
今の日本人は資本主義社会を当然であり、社会主義や共産主義よりも優れたイデオロギーだと考えている方が多いと思いますが、アメリカの若者の約半数は社会主義への変化を望んでいるそうです。
アメリカの若者は、貧富の激しい国に住みながら世界中の人たちと繋がることで、資本主義社会の限界がわかるのかもしれませんが、日本のように閉ざされた環境で、互助の精神が強い国ではそこまで資本主義社会の弊害が見られないのかもしれないですね。
本日は以上になります。
ありがとうございました。